スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、「エコノミストマネー」に寄稿した金相場の過去の歴史のレポートが2週にわたって、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」掲載されています。その後編をお届けします。 – 本記事はBullionVaultが執筆しています。

金相場の過去の歴史(後編)

ここ数年、世界経済は未曾有の危機をいくつも迎えることになった。サブプライムからの米経済の失速、そしてギリシャ危機に見られる欧州の問題。これまで何十年間も我々が当然と思ってきた経済の大原則が崩れたのである。よきにつけあしきにつけ、過去の経済は米国の消費に牽引されてきたと言ってよいだろう。グローバルスタンダードとはアメリカンスタンダードだったのだ。彼らがどんどん借金をして(米国債への最大の投資者は日本であり中国)そのお金をどんどん使って世界中のほかの人々が作った物を買うことによって、日本、中国、韓国が、そして東南アジアや中南米の国々まで潤ってきたのである。サブプライムはそんな彼らの消費パワーが、実は現実のものでなかったということを世界中に知らせ震撼させた出来事だったのである。 もはや米国には昔のように世界経済を牽引していくような力はない。今アメリカで世界に誇れる?ものは軍需産業と金融くらいのものであろう。オバマ政権はその金融業界の首を絞めようとしている。欧州も同様であるのは今回のギリシャ危機において明白である。米ドルの基軸通貨の地位はそんなに簡単に取って代わられるものではないが、長期的にはその経済とともに下落基調、ユーロも同様であるのは明らかだ。では米ドルやユーロに代わりうるものが何かあるだろうか?人民元か?将来の可能性としてはもちろん捨てきれない。今後世界の経済を引っ張っていくのは中国をその筆頭としたBRICs諸国の経済成長であろう。ただし、人民元が米ドルの代わりの役割を担うにはまだまだ時期尚早である。自由に取引ができない通貨では当然のことながらお話にならないのだ。 そこで注目を集めているのが金、ゴールドだ。現在、通貨の代わりとして投資家からもっとも熱い注目を集めているのが金なのである。ここ数年のこういった投資家からの資金の流入の勢いが、金の高値更新に現れている。ほかの貴金属が基本的に工業用メタルとして景気に敏感なことと一線を画し、逆に景気の先行きに不透明感が強くなればなるほど金への資金流入が増加するのである。その端的な表れが先にも触れたゴールドETFの残高の増加である。ギリシャ問題が表面化してから、それまではあまり増減のなかったゴールドETFの残高が再び急激に増加し始めた。そして欧米ではこれまでは見向きもされなかった金の現物、特にコインの需要が非常に伸びている。まさに通貨への不安の裏返しである。金には通貨のように国籍によるリスク(ソブリン・リスク)もなければ、株式や債券のような発行体リスクもない。金は金そのものの価値で評価されているのだ。これが金の最大の魅力なのである。 今、世界を見渡せば見渡すほど、将来に対する不透明感は強くなるばかりなのである。世界中の投資家がいま一番注目しているのが金なのだ。目先の相場の動きにかかわらず、大切な財産の一部としてソブリン・リスクも発行体リスクも関係ない金がほしい。そんな投資家が増えているのだ。あなたにも聴こえてくるはず、彼らの囁きが。 「Stay Gold!」


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池水雄一
貴金属ディーリングの世界でも第一人者。上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。