貴金属ディーリングにおいて世界でも第一人者のスタンダードバンク東京支店長池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、中央銀行において保有されている金総量と、現在に至るまでの歴史と傾向が解説されています。 – 本記事はBullionVaultが執筆しています。

第1回:「金の価値って何だろう?」

第2回:「金の比較的価値」

第3回:「金の実用的価値」

第4回:「ゴールドETFについて」

 

各国外貨準備高に占める金の割合

  国名 トン 金の割合
米国 8133.5 77.1%
ドイツ 3396.3 74%
IMF 2814.1 N.A.%
イタリア 2451.8 73.8%
フランス 2435.4 733%
中国 1054.1 1.8%
スイス 1040.1 18.6%
ロシア 879.2 9.7%
日本 765.2 3.3%
10 オランダ 612.5 62.5%
11 インド 557.7 10.5%
29 韓国 125.0 14.3%

中央銀行は現在約3万トンの金を保有しています。現在地上に存在する金の総量は17万1300トンと言われているので約17%を中央銀行がもっていることになります。中央銀行が持っている金は外貨準備の中にカウントされます。昔も今ももっともたくさん金を持っているのは米国です。8133.5トンと2位のドイツの2倍以上。外貨準備における金の割合は77%となっています。米国はもっとも信頼が厚い米ドルを自分の意志で好きなだけ発行できる国あり、すべての通貨がドルより信頼が劣るという現状では、他国の通貨を外貨準備として保有する意味はあまりないというのは当然のことです。米国にとって金以外の選択肢はないと言っていいでしょう。米国が全中央銀行の1/4の金を持っていても不思議ではありません。

1950年代は2万トン以上が米国によって保有されており、世界の公的機関の保有するゴールドの2/3が米国にあったことになります。当時、米国は米ドルと金の兌換を認めており、1オンスの金を35米ドル(後に42ドル)での交換を保証していました。つまり当時の金価格は35ドルだったのです。そして欧州各国はこれを利用して、当時ユーロドルと呼ばれた、米国外にある米ドルを米国に持ち込み、米国から金を引き出したのでした。その典型はドイツ。1950年ドイツの金保有はゼロでしたが、1961年には3256トンとわずか10年間で3000トン以上増やしています。この期間米国の金保有は20280トンから15060トンまで激減しています。この傾向は1960年代も続き、米国の保有金が1万トンを割り込み9000トン前後まで減少した1971年、当時のニクソン大統領がドルと金の兌換の中止を発表しました。これがいわゆるニクソンショックです。ここから金はドルとの固定価格は終わりを告げ変動相場が正式に始まりました。

ドイツをはじめとして1950年代に金保有を急増させたのがイタリア、フランスなどヨーロッパの三国であり、いずれも外貨準備の70%以上の金を保有しており、ドイツは3400トン、イタリア、フランスは2400トンと絶対量も世界のベスト5に入っています。欧州諸国はオランダが612トンで63%、ポ ルトガルに至っては91.5%(383トン)で外貨準備のほとんどを金で持っています。これ以外にもギリシャ83.3%(111.7トン)、オーストリア58%、(280トン)、スペイン33%(282トン)と金の保有率が非常に高い国が目立ちます。中央銀行全体の3万トンのうち8100トンが米国、 11000トンがユーロ圏諸国となり、いわゆる欧米の先進国で世界全体の2/3を占めていることになります。歴史的に二回の大きな戦争を経験してきたこ と、もっとも信頼できるとされる米国ドルに対する対抗心などがその根底にあるのではないかと思いますが、欧州諸国はドルよりも金を信頼しているということがこの数字に如実に表れていると言えるでしょう。

そんな欧州諸国も1980年代半ば以降は、運用担当者が戦争を知らない世代になり、パフォーマンス的には価格は下がる一方、金利収益もほとんど期待できない金に愛想を尽かし。ドル、マルク、スイスフランといった通貨への乗り換えがどんどん続きました。その結果30年以上の長きにわたって中央銀行はずっと金の「売り手」として存在しました。GFMSのゴールドサーベイではいつも中央銀行の売りという項目が「供給」サイドにありました。

しかしその売却は2009年にほとんどなくなり、2010年からは77トンの「買い手」にまわりました。2011年はそれが455トンまで伸びています。外貨準備が米ドルに偏重しているとくに新興国の国々がドルから金へのシフトを始めており、その買いが急増、そして逆に欧州の先進国の売りはほとんど無くなり、合計しても圧倒的に中央銀行のセクターが巨大な「買い手」としてマーケットに位置づけられることになっています。売り手が買い手に代わって、その 影響は倍ですね。2011年の金価格の急騰のひとつの原因と言ってもよいでしょう。具体的にはメキシコが99トン、ロシアが94トン、タイが53トン、韓国が40トン、カザフスタンが15トン、タジキスタン、ベラルーシが数トンの購入をしています。2007年から新興国は金の買いに回り、5年の間に1000トン以上買っています。これが過去5年の上昇相場の大事な要因となったのは確実です。新興国のドル資産偏重状態はまだまだ続いており、今後も金へのスイッチが続くと予想されます。

以上


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池水雄一
貴金属ディーリングの世界でも第一人者。上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏 のディーラー名)レポートも掲載。