image1

貴金属ディーリングにおいて世界でも第一人者のスタンダードバンク東京支店長池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、金の基礎知識編として、東京工業品取引所について解説しています。 – 本記事はBullionVaultが執筆しています。

東工取の歴史

  • 1982年 2月:東工取の前身である東京金取引所が設立
  • 1984年11月:東京繊維商品取引所、東京ゴム取引所との統合により東京工業品取引所となる
  • 1991年 4月:サラバによるシステム売買がスタート
  • 2004年 5月:金先物オプション取引開始
  • 2005年 5月:改正商品取引所法施行。日本商品清算機構(JCCH)設立
  • 2008年 1月:取引時間を15時30分から17時30分へ延長
  • 2008年12月:会員商品取引所から株式会社商品取引所に組織変更
  • 2009年 5月:取引時間を23時まで延長
  • 2010年 9月:取引時間を翌朝4時まで延長

東工取の現状

少し思い出話になりますが、私が東工取で取引を始めたのは1980年代後半、おそらく87年あたりでした。当時は「板寄せ」と呼ばれる独自の取引手法でした。取引所にいる「場立ち」と呼ばれる人々と、商社や取引員が電話をつなぎ、注文の出し入れを行い、まさに「せり商い」で買い手と売り手の希望がもっとも多く集約される価格で売買が決定していました。これを各限月ごとに行い、一日に6回「節」がありました。

この板寄せ商いは、場立ちの高度な技術に左右されることも多く、その電話の片方にいて、本当のプロの仕事に感嘆していました。その「板寄せ」も1991年4月にコンピュータ取引に全面移行で廃止。熟練の技術を持った場立ちの人たちもその技術を生かす場所がなくなってしまいました。大変残念な思いをしたことをいまだによく覚えています。

Comexもフロアがあり、フロアトレーダー(こちらでいう「場立ち」です)がいました。コンピュータ取引移行後もフロアは存続させて、いまだにフロアトレーダーもその仕事も存在しています。米国のほうが温情主義なんでしょうか。フロアトレーダーの力が日本の場立ちとは比較にならないほど強いということですね。現在はサイドバイサイドといってニューヨーク時間帯に限ってフロア取引とコンピュータ(Globex)取引が同時進行しています。ただしもはや圧倒的なボリュームはGlobex上に移っており、フロアは「象徴的」なものになりつつあるようです。おそらくはそう遠くない将来にGlobexに一本化さ れるのかもしれませんね。

さて、少し話しが外れましたが、東工取の現状です。東工取はその全盛期にはComexの25%から30%に当たる取引量がありました。しかし現状は約10%というところで、世界のゴールド先物のほぼ9割はComexにおいて取引されているということになります。 Comex vs Tocom in Volume (in tons)

Year 2009 2010 2011
Comex 109285 139215 152937
Tocom 11914 12198 15194
Tocom % 11 % 9 % 10 %

上の表はComexとTocomの出来高をトンで示したものです。ここ3年間はほぼComexの1/10という規模で推移しています。もはや完全なローカルマーケットと呼んでもいいかもしれません。東工取のもっとも活発だったのは2003年でこの年の出来高は、26637トンにまで膨らみました。それがここ三年は上記のような散々な結果となっています。毎年その取引高を伸ばしているComexとはまさに対照的な結果となっています。

この東工取の低迷の最大の原因はやはり、これまで東工取に流動性を与えていた個人投資家のオーダーが入ってこなくなったこと。これは2011年施行の改正商品取所法により商品取引員に対する規制が見直され、純資産額規制が義務付けられ、顧客勧誘行為にも厳しいルールが課されたためと思われます。

これまで永年にわたっていろいろ問題の耐えなかった営業姿勢を正すという意味とマーケットの信頼性を保つという意味で当然の規制でありましたが、これは 両刃の剣でもあったのです。自由な営業をできない、顧客数が減る、東工取の流動性が減る、商品取引員は体力をけずる。といった悪循環の末に廃業する業者も増え、このため東工取自体もジリ貧になっているという状況に現在はあるのです。この事態の打開のため、経済産業省、東工取を始めとして、業界を挙げての対策を考えていますが、効果のある打開策はいまだ打ち出せていません。

以上


© BullionVault Ltd 2015 - 金の購入は、専門市場価格で安全にブリオンボールトで。

池水雄一
貴金属ディーリングの世界でも第一人者。上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏 のディーラー名)レポートも掲載。